横浜地方裁判所 昭和44年(行ウ)23号 判決 1972年4月11日
原告 三浦勤労者音楽協議会
右訴訟代理人弁護士 岡崎一夫
同 山内忠吉
同 池谷利雄
同 川又昭
被告 横須賀税務署長 新村淳一
右指定代理人 岩淵正紀
<他九名>
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
(当事者の求めた裁判)
原告訴訟代理人らは、「被告が原告に対してなした別紙目録(一)記載の入場税および同加算税の決定処分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、
被告指定代理人らは、主文同旨の判決を求めた。
(当事者の主張)
第一、原告の主張
一、原告は、三浦市およびその周辺の音楽愛好家が三名以上集まってつくったサークルの集合体で、サークルを基礎とする会員の自主的な企画運営により、良い音楽を安く多くの人々と共に聞く一切の活動を行ない、会員自身の人間性を高め社会を明るくすることを目的とし、この目的達成のため音楽会(いわゆる例会)サークル合同批評会の開催その他の活動をしている者で、規約に基づき、総会、サークル代表者会議、全体委員会、運営委員会、委員長、副委員長、事務局長、会計監査等の議決および運営機関を有するが、会員各自がその主体性を保持したまま結合した組合類似の団体であり、人格なき社団ではない。
二、被告は、原告の右例会は入場税第二条にいう「催物」に、原告自体はその「主催者」に、会員の納入する会費は「入場料金」に各該当するとして、原告に対し、同法第三条所定の納税義務者として別紙目録(一)記載の各課税処分をした。
三、しかしながら、原告に対する右入場税および同無申告加算税の課税処分には次のような違法があり、従って右課税処分は取消されるべきである。
(一)原告は入場税法にいう「主催者」ではない。
原告は前記のとおり組合類似の団体であるが、仮に人格なき社団であるとしても、入場税法には組合もしくは人格なき社団に関する規定は存在せず、従って租税法律主義(憲法第三〇条、第八四条)の原則に照らし、租税義務の主体たりえない。
現行法上法人格は自然人と各種法人にのみ附与されるに過ぎないから、租税義務をそれ以外の社会的実体に負担させるには、国税通則法第三条、法人税法第三条、所得税法第四条、相続税法第六六条、地方税法第一二条における如く、人格なき社団については法人とみなす等の特別規定を設けることを要するが、入場税法には人格なき社団につきかかる特別規定は存しない。従って同法第三条が納税義務者として規定する主催者は、自然人もしくは法人に限られ、原告の如き人格なき社団を含まないと解すべきである。
(二)原告の例会は入場税法にいう「催物」ではない。
入場税法第二条第一項は、「催物とは<省略>映画<省略>音楽<省略>その他政令で定めるこれに類するもので、多数人に見せ、又は聞かせるものをいう」旨規定している。しかしながら、原告の例会においては、見せ又は聞かせる者と見又は聞く多数人との分裂対抗関係がないから、入場税法にいう「催物」に該らない。
即ち原告の構成単位は三人以上からなるサークルであり、会員は各自会費を拠出する外、各サークルの自主的活動を基礎に、総会、サークル代表者会議、委員会を通じてその例会の企画を具体化し、更に運営委員会を通じて右企画を実施するとともに、例会においては、座席案内楽屋手伝、椅子の持込整理等の例会管理を各自が行なっているのであり、従って例会とは、会員各自が音楽、演芸等の専門家と協同して音楽、舞踊等を上演し、会員各自がこれを観賞するものであって、原告の内部的活動に外ならず、ここには見せ又は聞かせる者と、見又は聞く者との対立が存在しないのである。
(三)原告は入場税法にいう「入場料金」を「領収」していない。
同法第二条第三項は「この法律において入場料金とは、興業場等の経営者又は主催者が、いずれの名義でするかを問わず、興業場等の入場者から領収すべきその入場の対価をいう」旨規定しているが、原告の会員の拠出する会費は例会への入場の対価とはいえない。即ち、原告会員の拠出する会費は、原告がその目的に則して行なう例会の諸費用にあてられるだけではなく、機関紙、ニュースの発行その他の広汎な諸活動のために用いられ、これは労音運動の分担金即ち原告の会員たる身分取得とその存続の条件であり、例会観賞への参加の有無に係わりなく拠出する義務があるものであるうえ、前記(二)記載の如き共同でなす労音運動の分担金として、相対立する別人格者間における領収の観念にもなじまないものである。
四、原告は別紙目録(一)記載の決定に対しては、所定期間内に異議を申立てたが棄却されたので、更に東京国税局長に対し所定期間内に審査請求をなしたが、昭和四四年八月六日棄却の通知を受けた。よって本訴に及ぶ。
五、(被告の主張に対する答弁)
被告の主張事実中、別紙目録(二)各催物開催年月日欄の日に三浦市体育館において、催物の種類および内容欄の各当該音楽を上演したことは認めるが、その余の事実はすべて否認もしくは不知。
第二、被告の主張
一、原告の主張事実、第一項の事実のうち三浦市およびその周辺の音楽愛好家が原告の会員となっていること、原告主張の如き規約およびそれに基づく機関が存在すること、第二項および第四項の各事実は認めるが、その余の事実は不知もしくは否認する。
二、原告は人格なき社団である。
原告は、その主張のとおり音楽愛好家を構成員とし、団体としての根本組織を定め、良い音楽を安く多くの人々と聞く一切の活動を行なうため、最高議決機関である総会において活動方針等団体の意思を決定し、これに基づいて、サークル代表者会議、全体委員会が具体的方針、例会についての企画、内容、追加会費を決定し、運営委員会が具体的な諸活動を執行し、役員として委員長、副委員長、事務局長、会計監査等が置かれる等、その構成員たる会員ないしサークルの増減変動に無関係に団体としての統一性を持続している代表者の定めのある人格なき社団であることは明らかである。かかる人格なき社団は、対外的には、その代表者を通じて自己の名において有効に私法上の契約を締結でき、その構成員とは独立した社団自体の名誉ないし社会的信用は自然人および法人のそれとならんで保護され、対内的には、その財産は各構成員の共有に属せず、総有とされているのであり、原告主張のいわゆる各会員の自主的活動による運営なるものも、単に人格なき社団の活動運営上の特色として理解されれば足り、その特色いかんによって社団としての性格に質的差異を生ぜしめるものではない。
三、本件課税処分には原告主張の如き違法はない。
(一)入場税法上における人格なき社団の地位について
税法のうちでも、国税通則法第三条、所得税法第四条、法人税法第三条、相続税法第六六条、地方税法第一二条等においては、「法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがある」人格のない社団について明文をもって規律しているが、それらは、右各税法等の規定の仕方の特殊性に由来するものである。すなわち、国税通則法、地方税法は当該法律の納付義務等の承継等について人格のない社団を法人とみなして各法律の規定を適用するものであり、所得税法においては、納税義務者は「個人および法人」に限定し(同法第五条)、これを基礎とした課税体系をとっているので、いわゆる法人格を有していないが、「法人」と同様に独自の社会的活動を行なっている団体が存在するところに着目して、これを法人と同様の法規制の対象とするためにみなす規定を設けたものである(同法第四条)。法人税法についてみれば、同法は納税義務者を「法人」に限定し(同法第四条)これを基礎とした課税体系をとっているので、前同様人格のない社団を法人と同様法規制の対象とするためにみなす規定を設けたものであり(同法第三条)、さらに、相続税法においては、納税義務者を個人に限定し(同法第一条・同条の二)これを基礎とした課税体系をとっているので、贈与または遺贈を受けた人格のない社団について前同様、個人と同様の法規制の対象とするためにみなす規定を設けたものである(同法第六六条)。
これら、納税義務者として「法人」とか「個人」とかの人格性を明記し、これをその基礎にして条文を構成しているいわゆる直接税法に対して入場税法は、その納税義務者を「経営者」または「主催者」と規定し、これらの者が同法第二条第三項にいう入場料金を同条第一項の興行場等への入場者から領収することをもってその課税要件としている(同法第三条)。
入場税は、いわゆる間接税の一種として、前記興行場等への入場について、その入場料金を支払って入場するところに担税力があると認め、「入場料金」なる経済的負担に対して課せられるものであり(同法第一条)、納税義務者は、入場者から右課税対象となる「入場料金」を領収するものとして規制されているのであるから、右納税義務者のうち「主催者」についてみれば、その法人格の存否およびその態様の如何にかかわらず、社会生活上の統一的活動体としてその名において当該興行場等をその経営者、所有者から借り受ける契約、当該「催物」(同法第二条第一項)のための演奏者、演技者等との出演契約、その広告、宣伝、会報等関係印刷物の請負契約の締結および関係諸経費の支払等の契約当事者として活動し、現実に催物を行ない、入場者から入場料金を領収する等いわゆる「催物」を主催しうる法的地位を有するものであれば足るものである。
右の理は、同法第八条に定める免税興行に関し、同法別表上欄「主催者」の四に「社会教育法第十条の社会教育関係団体」が掲げられていて、右同法条は「この法律で『社会教育関係団体』とは法人であると否とを問わず公の支配に属しない団体で社会教育に関する事業を行なうことを主たる目的とするものをいう。」と規定していることにより、右団体のうち法人に属さない人格のない社団であっても本来入場税法上の納税義務者であることが明記されていること、さらに同別表上欄「主催者」の一にいう「児童、生徒、学生又は卒業生の団体」は、通常法人格を取得するに適せず、そのほとんどがこれを有していない公知の事実からみてもその団体の人格性を問題としないで、右免税興行が規律されていると解されること等からも明らかなことといわねばならない。
更に、法人格あるものが催物を主催したときは入場税納税義務を負い、法人格のないものについては消極に解するということでは、租税原則たる負担の公平の要請にも反すること明らかで、これでは制度の趣旨、法の目的に違背することになる。
(二)例会は「催物」である。
(1)原告は別紙目録(二)記載の年月日に三浦市体育館において音楽会を開催したが、同目録「開催場所」欄記載の場所は入場税法第一条第一号該当の場所で、同法第二条にいう「興業場等」であり、同目録「催物の種類および内容」欄記載の演奏家らが演奏し、独唱、合唱することが「音楽」であることはいうまでもない。例会はこのような「興行場等」において「音楽」を「多数人に見せまたは聞かせるもの」であるから、それが催物に該ることは明白である。
(2)前記二のごとく、原告は人格なき社団であって、いわゆる例会は、原告自身の事業として行われるものである。
すなわち、例会を開催するについては、原告の意思決定機関である総会において例会の年間企画の大網が定められ、サークル代表者会議および全体委員会においてその実施方法を具体的に決定し、これに基づいて原告の業務執行機関である運営委員会が例会開催に必要な諸準備をなし、これを実施するという方法がとられている。すなわち、例会における上演種目を選定し、実現している者は原告である。また、例会を開催するに当っては、原告が三浦市体育館をその所有者から借り受け、必要な諸経費を自己の負担において出費し、会費は原告の収入とし、要するに原告の計算において例会を開催しているのである。
従って、原告は右「催物」の「主催者」に他ならない。
(三)会費は「入場料金」である。
例会における催物を見たり聞いたりするためには予め会費を原告に納めなければならない。会費を納めた場合には当該催物の行われる「興行場等」に入場する際呈示を求められる整理券が交付される。この整理券を呈示すれば入場が許されるのであって、会費が入場の対価、すなわち「入場料金」であることも疑う余地はない。
四、原告は別紙目録(二)記載のとおり、三浦市体育館において音楽の催物を主催し、右体育館への入場者から会費名義で入場料金を領収して会員らにこれを鑑賞させたので、被告は同目録(二)記載のとおり課税処分をした。
(証拠)<省略>。
理由
一、原告は原告自身が組合類似の団体である旨主張し、被告は原告を法人格なき社団である旨主張するところ、原、被告とも、これにより当事者能力を肯定することに争いはないのではあるが、先ずこの点につき判断を加える。
<証拠>によれば、原告は、三浦市およびその周辺の音楽愛好家を会員とし(この点は当事者間に争いがない)、音楽会(いわゆる例会)を催す等して良い音楽を安く多くの人々と鑑賞する目的で結成され、常時約三五〇名ないし一〇〇〇名の会員を擁し、規約を有し、それにより、現名称を称し、その事務所を三浦市内に置いていること、原告は、勤労者(但、学生、主婦、漁農民等を含む)のつくる三名以上のサークルの集合体で、サークルに加入もしくは新サークルを結成し所定の入会金を支払うことにより会員となりうるとともに、所定の会費を納めないことにより会員資格を喪失すること、各サークル代表者および役員、運営委員、全体委員、事務局は最高決議機関である総会を年一回構成し、予算、決算、事務運営、規約改正ならびに正、副委員長、事務局長、会計監査等の役員および全体委員、運営委員の選、改任決議を多数決を以ってすること、サークル代表者は同じく右総会に次ぐ決議機関であるサークル代表者会議を構成すること、全体委員と運営委員および役員は全体委員会を構成し具体的企画内容および各例会毎の追加会費を決定すること、運営委員と正、副委員長、事務局長は運営委員会を構成し具体的企画を実施するとともにその下に事務局を設けること、会の経費は会費その他で賄うこと等が定められ、昭和三九年一〇月発足以来毎月若くは隔月に委員長および運営委員会が中心になり会員を対象に例会を開催して来たが、次第に赤字が累積してきたため昭和四五年五月以降例会の開催を停止しているものの各会員より右赤字分を追徴することなく今日に至っていること、以上の事実が認められる。この認定を左右する証拠はない。
してみれば、原告は、団体としての組織をそなえ、団体としての意思決定をなし、その意思決定にあたっては多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等主要な諸点において社会的実在たる実質をもつところのいわゆる人格なき社団であり、民事訴訟法第四六条にいわゆる「法人に非ざる社団にして代表者の定めのあるもの」に該当するものである。会員の自主性が強く、ために社団性を否定して組合的団体と認定するを相当とするほどの証拠はない。
二、しかるところ原告主張第二項および第四項の各事実(課税処分と異議・審査)は当事者間に争いがない。
三、原告は、本件課税処分はいずれも違法である旨理由を挙げて主張するので、以下順次判断する。
(一)原告は、入場税法には人格なき社団あるいは組合に納税義務を課する旨の規定がないのであるから、租税法律主義に則り原告は入場税法による租税義務を負わぬ旨主張する。しかしながら、入場税法第三条は、「興行場等の経営者又は主催者は、興行場等への入場者から領収する入場料金について、入場税を納める義務がある」旨規定し、同法第二条第二項は、「この法律において主催者とは臨時に興行場等を設け、又は興行場等をその経営者若くは所有者から借り受けて催物を主催する者をいう」旨規定しているのであるから、原告の如き人格なき社団が右にいう主催者として納税義務を負担するか否かは、右入場税法規の解釈により決せられるべきであり、その解釈にあたっては、同法に人格なき社団に関する明文規定ないし「みなし規定」が存在しないことの故を以って直ちに人格なき社団は入場税法上納税義務を負わないとの形式論理的な反対解釈をもってこれを断定することは出来ない。
(1)法規はその社会的作用の観点から社会的規範としての価値をも合理的に評価せねばならない。しかして人格なき社団も、団体としての組織を有し社会現象として社会生活上の一単位として実在し、社団法人に準じた地位を有するものとして活動しており、入場税法所定の前記興行場等の経営又は催物を主催しうる実体と法的地位を有するものといえるから、前記規定の解釈としては、「経営者」又は「主催者」には人格なき社団も含まれると解するのが合理的且つ社会的衡平に適うのである。
(2)のみならず同法第八条第一項は、
「別表の上欄に掲げる者が主催する催物が左の各号に掲げる条件に該当する場合において、第三項の規定による承諾を受けたときは、当該催物が行われる場所への入場については、入場税を免除する」旨規定し、同法別表上欄において、「児童、生徒、学生又は卒業生の団体」「学校」(括弧内の説明省略)「学校の後援団体」「社会教育法第一〇条の社会教育関係団体」等明らかに法人格を有しない団体、一般に法人格を取得するに適しない団体、通常法人格を有しない団体等を掲記しているのであり、このことから入場税法第八条は、人格なき社団等に納税義務があることを当然の前提として規定しているものと認められる。これは入場税法そのものが人格なき社団等に納税義務があるとしていることの実定法的根拠となり、従ってまた、第三条の前記解釈の根拠とせざるを得ない。
(3)更に入場税は興行場等への入場につきその娯楽的消費支出に担税力があると認めて入場料金に対し課税するものであるから、租税負担者は入場者であり、主催者が法人であるか法人格なき社団であるかによって取扱いを異にすることは、租税負担公平の原則に反するのみならず、興行場等への入場には原則として入場税を課すると定める入場税法第一条の法意に反することになる。
以上を綜合判断すると、入場税法上人格なき社団も納税義務を負うというべきであり、これに反する原告の主張は採用しがたい。
たしかに、国税通則法、地方税法の如き国税および地方税の通則法の各第三条および第一二条は人格なき社団は法人とみなす旨の規定が存する。しかし、他方、法人格なき社団も納税義務を負担すると解するのがその法の目的および社会的衡平に適うと考えられる他の各種間接税法および非直接税法にはかかる規定は存しない。従ってかかる「みなし」規定の有無という一事をもってしては、未だ前説示の解釈を左右するには足らない。しかも、原告列挙に係る他の直接税法は、それぞれ次に述べるような独自の立法経過によって、人格なき社団について明文の「みなし規定」をおいているのであって、右各税法に対比して入場税法にかかる規定のないことを以って原告の主張を根拠づけうるものではない。すなわち、(1)所得税法第五条は、納税義務者として、居住者、非居住者という個人ならびに内国法人、外国法人という法人を、法人税法第四条は、納税義務者として、内国法人、外国法人のみを、それぞれ掲げて規定しているため、改めて所得税法第四条および法人税法第三条において、それぞれ人格なき社団を納税義務者とすべき合理性と社会的衡平の要請から、立法技術として「みなし規定」を設けたものであり、(2)相続税法においては、納税義務者を個人に限定している(同法第一条、第一条の二)ので、右同様の理由から人格なき社団に納税義務を負担させる「みなし規定」を設けたのである。従ってこれら各税法の立法技術を入場税法が採用していないからとて、入場税法の前説示解釈が左右されることにはならない。
(二)原告は、本件課税処分の対象となった例会は入場税法第二条第一項の「催物」に該当せず、従って、原告は同条第二項にいう「主催者」でもない旨、主張する。
なるほど<証拠>を綜合すれば、原告は前記のとおり昭和三九年一〇月に設立された法人格なき社団として、個々の会員とは独立に存在かつ活動し、その議決機関として総会、サークル代表者会議、運営委員会等がおかれ、右議決機関の議決に基づいて原告の代表者(委員長)が事務局長らの補佐により原告の名と責任において、音楽家ら出演者との出演契約、例会々場所有者との会場賃貸借契約を締結する等の業務の遂行にあたり、原告の個々の会員は右契約による法的効果の帰属主体とならず、その損益はすべて原告に帰属し、各会員がこれを分配もしくは負担することなく、原告の計算と責任において例会を開催し、会員に音楽の鑑賞をする機会を与えていること、個々の会員はサークル組織によって自主性を保ちつつ連結し、また個々の会員の入会目的と原告の社会的実在としての目的と深く関連していると同時に、原告への入会はその時期および資格に特段の制限もなく、開放的で、所定の入会金および会費を納入しさえすれば入会できるのであり(三人以上のサークルに加入するのが原則であるが、サークルに加入しない個人会員も例外的に認められている)、又会費を納入しないことにより自動的に脱会となるとともに、会員の中には例会を選択する傾向があり、会員の相当数は各例会毎に変動していること、会員は入会の際、会員たることの証として会員証の交付を受ける他、毎月一〇〇円の基本会費を納め、例会がある場合には追加会費を納入してこれと引換えに会員券(いわゆる整理券)を受領し、例会々場に入場するに際し、これを会場係員に呈示せねばならないが、その際会員証の呈示は要求されず、従って会員資格を有しないものでも会員券を持参しさえすれば入場は可能であり、原則として会員券(整理券)の譲渡は禁止されてはいるというものの、事実上その譲渡が全くなかったわけではないこと、更に例会の入場人員は少ないときで約三五〇名多いときで約一〇〇〇名というような幅があったことが認められる。他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
以上の事実によれば、原告にはその催す例会単位に会員が組織されるに過ぎぬという側面のあることを看過しえず、前記整理券の交付は各例会毎になす一般興行における入場券、前売券の発行とその機能を同じくするものがあるのであって、例会をもって、原告社団の対内的、閉鎖的活動にすぎないとはいい切れず、原告の追求する目的は特種な特徴を保有しつつも社会内における文化団体活動一般と差別される理由なく、現社会体制下において等しく入場税法の法域内にあり、右法の適用においては、独立の社会的存在である原告自身が主体となり、興行場において各例会毎に常時任意変動する会員である多数人に対して、音楽等を見せ又は聞かせるために開催したものであることを否定できない。ちなみに、入場税法上の多数人とは、不特定多数を要求せず、特定多数たること、会員たること、会員のみたることを妨げない。
してみれば、原告の催した例会は、入場税法第二条第一項に規定する「催物」に該当し、これを主催する原告は同条第二項の「主催者」に該当することになるから、この点についての原告の主張は採用できない。
(三)原告は、会員の拠出する会費は、原告の会員たる身分の取得と存続の条件であり、例会において音楽等を鑑賞するための入場の対価ではなく、入場は無料であり、会費は入場税法にいわゆる「入場料金」には該当せず、従って原告は「入場料金」を「領収」していない旨主張する。
しかしながら、<証拠>を綜合すると、原告は例会活動をその主たる活動とするもので、その例会には基本会費の外各例会に対応する追加会費を納入した者のみが会員という名で参加鑑賞でき、その追加会費は各例会の企画実施に必要な費用を参加予定人数で頭割りして決定されるのであって、このように、一定の経常費用に振当てられる基本会費の外に各例会毎に異なる追加会費が徴収されることが常態化しており、更に納入された会費(基本会費および追加会費)はそのほとんどが音楽家らに対する出演料、会場賃借料、機関紙発行費用、事務所賃借料、事務局員の給与等に該てられ、それ以外のレクリエーション活動等は参加各員の自己負担でなされていることが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実に前記(二)において認定した事実(主催者と催物)を併せ考えれば、原告が会員から徴収する会費の大部分は、直接間接に例会の経費として使用されており、会員各自も主として例会に要する経費を分担する趣旨のものとして会費を支払っており、当該月分の会費を支払った会員はすべて当該月内に催される例会に参加入場して音楽等を鑑賞する権利を取得するが、会費を支払わない会員は当然に会員たる資格を失ない例会に参加入場できないのであって、入場税法上は、各例会毎における会費はすなわち入場の対価であり入場料金である。原告主張のように会費の納入が一方では会員たる身分の取得および存続の条件となるものであっても、同時に右のように解することの妨げとなるものではない。従って人格なき社団である原告が個々の会員からする会費の徴収は、入場税法上は、「入場料金」の「領収」に該当することになるから、この点についての原告の主張も採用できない。
四、そこで、本件課税処分の課税要件の存否につき判断する。
原告が別紙目録(二)記載の開催年月日欄記載の日に、三浦市体育館において、同目録催物の種類および内容欄記載の音楽を上演したことは当事者間に争いなく、弁論の全趣旨により真正の成立を認める乙第六、第七号各証に弁論の全趣旨を綜合勘案すれば、原告は昭和四三年三月三〇日には二八七名の入場者より会費名義にて各自金四〇〇円を、同年五月一九日には七五六名の入場者より同じく各自金四〇〇円を徴収したことが認められる。
そうすると原告は前記認定の諸事実に照らし、右各年月日に、三浦市体育館の興行場に於いて、右音楽の催物を主催し、かつこれを右多数の入場者に見せ又は聞かせもって右入場者から右各入場料を領収したものであるというべきである。
しかして、別紙目録(一)記載の本件各課税処分は、右認定した領収金額の範囲内において、課税標準およびそれに基づき適正な税率を適用して得られる税額を決定し、且つ適正な税率による無申告加算税を賦課したものであるから、いずれも適法である。
五、以上のように、被告のした本件各課税処分には、原告主張の如き違法はないから、原告の請求はいずれも失当としてこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 立岡安正 裁判官 新田圭一 島内乗統)
<以下省略>